1242│山の一軒家(たんすの中の田んぼ)

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ソース場所:甲府市古関町に伝わるお話

●ソース元 :・ 土橋里木(1975年)全國昔話資料集成16甲州昔話集 岩崎美術社
●画像撮影  : 201年月日
●データ公開 : 2017年10月19日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他   : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。

 

[概要]

山の一軒家(たんすの中の田んぼ)
ある所の炭焼きの若い衆が二人で山奥へ稼ぎに行った。ところがどこでどう道に迷ったか、行っても行っても炭竈の所へは出ないで、今まで来たこともないような深い山奥へ迷いこんでしまった。すると向こうに一軒の家が見えるから、そこへ訪ねて行って見ると、美しい娘がただ一人で住んでいた。それから二人の若い衆は「俺等ァ道に迷って困るけれ、今夜ァ一晩泊めてくりょオ」と言って頼むと、娘は「お前方ァ泊めてやっても、家には食う物も着て寝る物も何にもないから、泊める事ァできん」と言って断わった。けれども若い衆が「俺等ァ食う物にも何にも要らん。ただ家の中へ一晩おいてさえくりょオばええだから」と言って強って頼むと、娘も「そんじゃア泊めてやる」と言って、二人を中に入れてやった。
すると娘は「俺ァちょっくら(ちょっと)用事に行って来るから、お前方二人で留守居をしていてくりょオ。けれども、決してこの箪笥ゥあけて見ちゃァ困るだから、これだけはあけッこなんでおいてくりょオ」と言って二人によくよく念を押してから、どこかへ出て行った。
二人の若い衆も、初めの中は真実に留守番をしていたが、いつまでたっても娘も帰っては来ぬし、見ちょ(見るな)と言われた箪笥の中をあけて見たくてならなくなったから、ちイッとぐらいじゃアあけて見てもええらと思って、ついついその箪笥に手をかけた。まず、下の引出をあけて見ると、何たら、その中は広い広い田圃になっていて、まだ植えつけたばかりの稲の苗が青々としていた。次に中の引出をあけて見ると、もうその稲が大分伸びて青々と繁り、ボツポツ穂も出揃うという有様であった。それから一番上の引出をあけて見ると、もう広い田圃一面の稲がよく実り、重く垂れた穂がユサユサと揺れて、風の吹くたびに黄金の波を寄せていた。
これを見た若い衆は驚いて、あわてて箪笥の引出をしめて知らぬ顔をしていると、そこへ娘が戻って来た。しかし、娘は何となく悲しそうな顔をして「俺ンあれほど止めて行っとォに、お前方ァ箪笥の引出をあけて見たなア。もし、俺ン帰って来るまで笥箪の中ァ見なんでいろば、お前方の中の一人を俺ン聟にしずかと思っていたが、二人とも見てしまったから駄目どオ」と言った。それから二人の若い衆も仕方ァなく、暇乞いをしてそこを出て、ようよう道を見つけ出して家へ帰って来た。それから後、心当りの山の中をいくら捜しても、二度と再び、その娘の家は見つからなかったそうだ。
(昭和五年七月二十五日 土橋いち婆様)

「全國昔話資料集成16 甲州昔話集」  土橋里木 編 より
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この話は「見るなの座敷」または「うぐいすの里」といわれている昔話の一つの型です。全国的には、女から座敷を見てはいけないといわれるのですが、この話では、箪笥になっています。そして箪笥の中は米づくりです。山梨(特にこれが採話された地は山に囲まれた平地の少ない集落です)の人たちにとって田んぼは貴重なものだったからこそ語り継がれた昔話といえましょう。小さな約束を破ったために、大きな財産を目の前にして得ることが出来なかった若者達のお話に「あー自分だったら上手くやれたんじゃないか」などと心躍らせながら聞き入る、囲炉裏を囲む家族の表情が伝わってくるようです。

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甲府市古関町
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