1546│くじの神様

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ソース場所:早川町薬袋 旧 五箇小中学校跡

●ソース元 :・ 「早川のいいつたえ」第一集  著者:三井啓心  出版社:㈱上田印刷
●画像撮影  : 年月日
●データ公開 : 2020年08月19日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他   : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。

 

【概要】

早川町薬袋の集落をうねうねと塩之上方向へ向かう途中に、学校跡地がある。その敷地内に小さな祠があるのですが、地元では、この神様は「くじの神様」として有名です。母親たちの悲しい願いに寄り添ってくれた神様なのだそうです。

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薬袋[ミナイ]のいいつたえ
『くじの神様』

薬袋というと、角瀬[スミセ]の対岸の集落を言いますが、この地続きの山の上に五箇[ゴカ]小学校があり、そばに五箇役場がありました。今は両方ともなく、役場のあとに山住[ヤマスミ]神社が建てられました。
このお宮、もとは古屋の集落におりる途中の少しくぼんだところにあって、大山祗命を祀ったものです。この神様また「くじの神様」として有名で、また村社でもあったので、春秋のおまつりにはとてもにぎわいました。
とくに母親のおまいりが多く「南無神様、今度うらん[うちの]息子ん[が]徴兵検査受けるどうけんが[のですが]、ムニャムニャ。」本来検査というものは、合格したいのが人の常ですが、このムニャムニャ「合格しませんように、合格しても徴兵のくじからはずれますように。」こんな願いが多かったようです。たしかに母親の本音ですね。
自分の可愛いい息子が戦争で死んではたまりません。それで戦争中はこのお宮、お参りする人がけっこう多くて、そばに他人でもいれば「どうか息子が甲種合格になって、お国のためになるように。」なんて聞こえるように祈ったものです。
神様も苦笑いをしながら、この軍国の母の願いを聞いたことでしょう。
この神様、くじのがれ専門かというとそうでもなく、人間のさまざまな願いを聞いてくれるということで、時折訪れる人が、今でもさいせんを投げていると、この話を教えてくれた塩之上[シオノウエ]の深沢豊さんはいわれています。
でもこのくじというのは、本当は峠の付近で、おわんのようにへこんだところという意味だそうで、そこに祀ってある神だから「くじの神」というわけで、元来は運の良いとか悪いというのとは全く意味が違うというわけです。
それが長い間に運、不運のくじにあやかって、運を決める神様になってしまっただろうとは、郷土史研究にくわしい、尾崎幹雄先生のお話です。
そんなことはおかまいなしで、神様は新しくつくられた社の、奥深く鎮座ましまして、おごそかなお顔で、松林をわたる風音を聞いていらっしゃいます。
あなかしこ。

(資料:元早川南小学校長 深沢 豊)

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