物語
Old Tale
#1295
弘法奇跡④ 封じ込められた鬼
ソース場所:富士河口湖町西湖に伝わるお話
●ソース元 :・ 内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
●画像撮影 : 201年月日
●データ公開 : 2017年12月15日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概要] 弘法大師が富士北麓を布教して廻っていた時、西湖周辺を訪れた頃には、弘法さまの評判が知れ渡って来ていた。村人たちが大師様を心待ちにするようになるにつれ、あまのじゃくの老婆は評判の大師様をからかってやりたくなり、悪知恵を巡らせて大師様へ「鬼が出て村人が苦しめられています。退治してください」と言い、「殺生はならぬとか言うけれど、鬼を退治すれば殺生する事になる。さあどうする?」と意地悪く待ち構えていた。 ところが、大師様は村人が見守るなか、用意された墨に筆をひたすと、立ち上って鬼ケ岳に対面する岩に向って筆を投げた。飛び散った墨は鬼の恐れる鐘馗の姿になった。これで鬼は鍾馗様を恐れて村に出てこれなくなった。 あまのじゃくの老婆は驚き、恐れいって弘法さまにわびたと云う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
弘法奇跡(四) 封じ込められた鬼
弘法さまは富士北麓をさらに西にたどって富士五湖の一つ西湖へと向った。もうその頃には、弘法さまの奇跡は桂谷の村々にくまなく知れわたり、我が村にも弘法さまが訪れないものだろうかと村人達も心待ちにしていたので、訪れた旅の僧が噂の弘法さまのようだとささやかれただけで村中の人々が集まってきた。弘法さまは集った人々に深く感謝し、説話を適して仏道の尊厳さを説いた。説話は面白くみんな心洗われる思いで聞いた。
が、意地悪で知られたあまのじゃくの老婆がいた。老姿は『ろくに人家のないこんな山奥まで、いかに布教のためとはいえ、弘法とやらも酔狂な坊さんだ。一つからかってやれ』と考えて「鬼が出て、村人を苦しめて困るので、お坊さまのお力で鬼が出ないようにして下され」と言い、村人に向かっては「人を救うとか、殺生してはならぬというが、鬼を退治すれば殺生することになり、退治しなければ人を救えない。偉そうなことを言った坊さんの顔を見たいものだ」と弘法さまが困るのを楽しそうに、それでも声だけは低くして話した。
ところが弘法さまは、村人が見守るなかで即座に、用意された墨に筆をどっぷりとひたすと、やおら立ち上って鬼ケ岳に対面する岩に向って筆を投げた。筆は岩頭に当って墨が散った。散った墨は絵となってあらわれた。鬼の恐れる鐘馗(しょうき)の像であった。弘法さまは「鬼を監視の鐘馗を描いたので、もう心配はいらぬ」とこともなげに言った。先ほどまでざわついていた鬼ケ岳のざわめきはピタリとおさまり静まりかえっていた。
村人は大いに喜こび、お礼にと急いで粟飯を進ぜると、弘法さまは、「私だけ空腹を満たしてはいられぬ」と、足もとの湖水へ粟飯をまいた。すると、かつて見たこともない大群の腹赤(ウグイに似た魚の名)が群がり寄ってエサを食べた。
これにはさすがの意地悪婆さんも驚き、恐れいって弘法さまにわびた。弘法さまは「わびる心があるからには、あなたはもはや、仏の心を宿し、人として救われました。お仏さまも救いの手を差しのべましょう」と静かに言われた。
老婆は人が変わり、善行が目立つようになった。弘法大師の功徳は知れわたって、湖畔に仏教の信者が多くなったという。また、西湖の腹赤が頭に粟粒を二つずつ頂いているのは、こうした故事があったからだという。
内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
このデザインソースに関連する場所
Old Tale
Archives
物語
山梨各地に伝わる昔話や伝説、言い伝えを収録しています。昔話等の舞台となった地域や場所、物品が特定できたものは取材によって現在の状態を撮影し、その画像も紹介しています。