1225│河童のきず薬
ソース場所:韮崎市藤井町下条
●ソース元 :・ 土橋里木(昭和28年)「甲斐傳説集」山梨民俗の会
●画像撮影 : 201年月日
●データ公開 : 2017年08月24日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概要]
河童の疵薬 北巨摩郡藤井村下条
貧しい農夫が、毎日馬に薪をつけて町へ売りに行った。或年師走の末に、薪を売って正月の支度をし、釜無河原を帰って来ると、急に馬が跳ね上がって一足も進まなくなった。馬の後ろへまわって見ると、十一・二の子供が馬の尾にすがっている。馬に蹴られると危ないからそこを退けと云っても、尾を放さぬから馬方は怒って、山刀を抜き切りつける真似をすると、その子供も逃げた。すると馬も普通に歩き出し、家は帰って馬を洗おうとすると、猿の腕のようなものが尾房を掴んだまま、途中から斬られている。さては先の子供は怪物であったかと、その腕を取ろうとしたが離れぬから、そのまま馬を厩へ引き込み、自分も寝た。夜中に外から子供の声で馬方を呼ぶ。戸をあけてみると十一・二の子供の、人間とは見えないものが悲しげに平伏して、私は釜無川の河童だが、河童が馬の尾を一筋もつときは、色々の妖術が得られる故、それが欲しさに今日は申し訳のないことをした。その時斬られた片腕をお返し下され、お礼には毎朝鮮魚を献上しようと言った。馬方は、汝のためにこれ迄人馬がどの位悩まされたか知れぬ,不届き至極の者に決して腕を返さぬといったが、河童が泣いて頼むので、馬方の妻も憐れがり、返してやるように夫を諌めた。馬方は笑って、この腕を返してやっても、一旦斬られた腕をどうして接ぐのだと云うと、河童は我にこの腕を接ぐ妙薬あり、人間にも大効があるという。馬方は、そんなら腕を返してやるから、その薬方を我に伝えろというと、河童は喜んで、薬方と腕とを取替えて帰った。
翌朝夫婦が起きて見ると、河童の謝礼か、水桶の中に川魚がいっぱい入っていた。獣の食物を食っても仕方がないと、その魚を皆川へ放してやった。河童に教わった薬方の薬種は、田野に生えている草だったから、その薬を調合して金疵に用いると即効があり、「下条の疵薬」といって有名になり、青銅二十四文で売ったが、馬方はこのお陰で、後に富裕になったという。 (裏見寒話)
土橋里木(昭和28年)「甲斐傳説集」山梨民俗の会 より