1280│熊太郎稲荷
ソース場所:都留市十日市場 熊太郎稲荷
●ソース元 :・ 内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
●画像撮影 : 201年月日
●データ公開 : 2017年12月05日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概要]
熊太郎稲荷
都留市十日市場の上の山に、熊太郎というこじきが住んでいた。熊太郎は気がふれてゲラゲラ笑いながら歩いたり、かと思うとオイオイと泣いて歩いたり、意味の分からぬことばを大声で叫びながら歩いたりするので、村の人たちから気味悪がられ、困ったものだとうわさされるようになった。
ある日、熊太郎を見ていると、四つんぱいになって、ピョンと跳ねては首を持ち上げ、左右を見回し、またピョンと跳ねてはあたりをうかがうので、村人は熊太郎にキツネがついたと悟った。
「熊太郎め、キツネにつかれたらしい。悪さこかれでも困るし、どうしよう。どこかへほうり込んでおくか」というような話になったが、ともかくとりついたキツネに聞いてみようということになった。
そこで、法えんさん(祈とう師)を呼んで、熊太郎が寝静まるのを待って、まじないを唱え
「熊太郎さんに宿っているおキツネ様。どうすれば離れますか」
と聞いた。すると、眼っている熊太郎の唇が動いて
「山梨稲荷のそばにまつってくれれば離れる。そうすれば、村に良いことのあるときは、表通りをコンコンと鳴き歩き、悪いことのあるときは裏通りをキャンキャンと鳴いて知らせよう」
と答えた。
早速、山梨稲荷の社地を借りて小社を造り、おキツネ様を祭神としてまつったところ、キツネが離れたのか熊太郎は正気にもどり、村も平穏になった。
それから何年かして、熊太郎も天寿を全うし、キツネの話も忘れようとしていたころ、ある日の夜明けに、裏通りをキャンキャンとキツネが鳴いて通るのが聞こえたので、村人は熊太郎の宣託を思い出し不吉な予感を感じていた。案の定その夜火事があり村の半分近くが焼けてしまった。キツネの予言で不安のあまり、みんな寝ていなかったので、けが人一人なく、家財もほとんど持ち出せたので、災害は大きかったものの、せめてもの慰めとなった。
このことがあってから、熊太郎稲荷にはご利益があると世間に知れ、功徳にあやかりたいと、近郷近在から参詣者がおとずれ、い
つしか山梨稲荷のお株を奪い、商売繁盛家運隆盛を願って祭りの日は門前市をなすありさまとなった。
内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版