0549│金ガ岳の新左衛門

ソース場所:北杜市須玉町江草 金が岳
●ソース元 :・ 土橋里木(昭和28年)「甲斐傳説集」山梨民俗の会
・ 甲斐志料刊行会 編(昭和7-10年)『甲斐志料集成 3』p246「裏見寒話 追加 怪談」 より
●画像撮影 : 201年月日
●データ公開 : 2018年03月12日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概要] 金ヶ嶽の新左衛門 江戸時代の甲府勤番士 野田市左衛門成方(ノダ イチザエモン シゲカタ)の「裏見寒話」に記されたお話。金が岳に棲む新左衛門という超人は、空を飛び、風雨雷を起こし、天狗と交流し、怒った時は鬼のような姿になり、人々に恐れられていた。しかし、機嫌の良いときは人の姿になり、温泉で他の浴客らと談笑して寛いだ姿を見せ、只々異形のままの超人より格段に能力があると笑ったりした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
金ガ岳の新左衛門 北巨摩郡江草
金ガ岳の深山に、新左衛門という異形の者が棲み、飛行自在で風雨雷電を起こし天狗と交わり魔術に通じ、怒る時は鬼形に変じ、和する時は人体と化して人と交わる。常に「荏草[えぐさ]の孫左衛門などは、術が至らず、まだ自然の変化をなし得ぬ」と嘲っていた。この新左衛門が或年 信州諏訪温泉に入浴し、他の浴客と語っていると、忽然として焔の玉が飛んで来て浴室の軒に止った。浴客一同驚くと新左衛門は笑って、これは白猿というものだ。猿が五百年を経て猩猩となり、千年を経て白猿となる。天狗と等しく猛悪で、稍もすれば吾と魔威を争うて、この様な怪異をするが、何ら恐るるに足らぬと、平気で談笑していたが、果たして何事も起こらなかったという。 (裏見寒話)
土橋里木(昭和28年)「甲斐傳説集」山梨民俗の会 より
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
金ヶ嶽の新左衛門
逸見筋金ヶ嶽の深山に新左衛門と云う異人がいる。いつの頃からか この山中に住み、山嶽を巡り、鬼形に化して風雨雷鳴をおこす。農家などが彼の怒りを恐れてこの名を付けたと云う。一説に、一年 信州諏訪の温泉に甲斐より来て入浴している者がいた。他の入浴客と談笑している。彼に名前を聞いたら「金ヶ嶽の新左衛門だ」と答える。新左衛門は山犬の類と一緒で人に交わる事が無いと聞いていた客が、ふざけて「鬼畜は名乗るな!」と云うと、「私は数百年 金ヶ嶽に住む。自由自在に空を飛べ、風雨雷をおこし、いつもは天狗と交流して魔術にも精通している。なので、怒る時は鬼形に変身して 見る者を死に至らしめ、和する時は人間の姿に変身して交わる。荏草の孫右衛門(アーカイブNo.1234)なんかは術が未だに至らず、自然の変化をする事は出来ない。猛獣・蛇蝎をはじめ私は怖いものなどいない!」その言葉が終わらないうちに忽然と火の玉が飛んできて浴室の軒に止まった。それを新左衛門は笑いながら「これは白猿と云うものだ。良い事もすれば、私と魔術を争ったりもする。白猿は、猿が五百年経て狒々となり、千年経て白猿になる。また、天狗と同じで猛悪無双で、我慢心に誇ろうとして、この様な怪異をなす。全く恐るるに足らない!」と笑った。 (裏見寒話)
甲斐志料集成3(昭和7-10年) 甲斐志料刊行会 編 (裏見寒話 写本六巻五冊 野田成方)より