物語
Old Tale
#1291
雨乞いびんずる
ソース場所:大月市七保町林296 宝鏡寺 薬師堂内「びんずる様」
●ソース元 :・ 内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
●画像撮影 : 201年月日
●データ公開 : 2017年12月13日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概要] 賓頭盧様と呼ばれる像は、たいがいお寺の本堂外陣に安置され、病や怪我を負った人がその疾病箇所をなでると良くなると云われ、黒くピカピカに光っている。ところが、沢戸のお賓頭盧さんは雨乞いにも使われ、何度もお身拭いにすっかりすり減って静かに薬師堂で眠っていられる。
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雨乞いびんずる
おびんずるさま はたいがいお寺の本堂の外陣に安置されている。お参りに来た人がすぐにふれることのできる所にあるのは、病気や傷のある人が おびんずるさま にふれて疾患の部分をこするとなおしてくれるからだ。だから おびんずるさま の体はピカピカ光っているのがふつうなのに、ここ沢戸(大月市七保町)の薬師堂に祀られる おびんずるさま は、川の流れ木のように白ぼけて、よそのお寺のおびんずるさまのように黒く光つてはいない。
このおびんずるさまは、もともと雲沢山宝鏡寺に祀られていた。宝鏡寺の本尊はお薬師様である。このお薬師様は近づいて見ると目がつぶれると伝えられ、秘仏として開かずの扉の中にあったため、お薬師様のご利益にすがりたくても、ふれるどころか見ることもかなわぬとあっては心もとないだろうと、開祖さまがふれてこすれば病がなおると信じられる十六羅漢の第一尊者、賓頭盧(びんずる)を脇侍のように祀った。
「おんころころせんだりまとうおきそわか」
と薬師真言を唱えてお薬師様を拝んだあと、高野山から運ばれたというこの おびんずるさん にひざまづき、足のいたい人は足にふれ、眼の悪い人は眼にふれてこすれば、ご利益はたちまちにしてあらわれるという霊験あらたかなお仏様であった。
ある年、ひどい日照りが続いた。農作物ばかりでなく草も萎え、樹木さえ生気を失いはじめた。
村人は集った。
「このままでは、作物はみんな死んでしまう、雨乞いをしようじゃないか」
ということで相談していろいろな方法で雨乞いをしてみたが一向にききめはなかった。
誰いうとなく、「これはお天気が病気をしているのだ。」ということになり「おびんずるさんにお願いして雨乞いをしてみたらどうだろう」と言ったのがきっかけで、その方法をいろいろ協議した。
さまざまな案が出されたが、結局「お賓頭盧さまはさすって願いをかけるもの、お堂の前の淵でお賓頭盧さまの体を洗ってやったらどうか」というお身ぬぐいの案に決まった。
村人は淵に集って「オービンズルさま姥子山に雲呼んでおくれ。奈良子の谷に沢水どんと流しておくれ、淵の水が干っちまうぞ菜っ葉もデーコ(大根)も枯れちまうぞ、南無オービンズル様よ、沢戸の村に雨降らせておくれ」と唱えながら藁のたわしで賓頭盧尊の体を洗ってやると〝一天俄かにかき曇り〟 三人目の手に渡るころにはもう空は雲に覆われ、五人目を交代する時には霊験あらたかに雨が降ってきた。
以来賓頭盧尊はしばしば雨乞いにつかわれ霊験を発揮した。また、この淵は「おぴんずる淵」と呼ばれるようになった。農作物を守ってくれた おびんずるさん はたびたびのお身ぬぐいで今は原形を全くとどめず、すっかりすりへったお姿で、もう病を癒やすお役目も雨を降らせるお役目も終ったかのように、静かに薬師堂で眠っていられる。
内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
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ここの薬師如来は「沢戸のお薬師さん」と呼ばれ、地元の鈴木家が代々守ってきたそうです。
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