物語
Old Tale
#1172
深町に舟が着いた話
ソース場所:笠森稲荷大神社前 甲府市城東2-10-8 付近
●ソース元 :・ 山梨県連合婦人会 編集・発行(平成元年)「ふるさとやまなしの民話」
●画像撮影 : 2017年02月11日
●データ公開 : 2017年01月05日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概要] 富士川船運が盛んで、色々な甲斐国外の品物が、舟によって甲斐府中に運ばれていた頃、甲府市深町は駿河からの舟運の終着地でした。 山をこえて甲州街道経由で運ばれる荷物より、はるかに沢山の荷物が富士川を舟に載せて運ばれてきました。大工事だった中央線の開通により、富士川舟運は次第に廃れ、身延線の開通によってついにはその姿を消し、深町の辺りが一大集積地で繁華街だったことを示すものも見られなくなりました。
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深町に舟が着いた話
あの頃の富士川は、千隻もの舟が上下して賑わっておりました。
駿河の岩渕から、甲斐の鰍沢宿まで下りは一日でしたが、急流を遡るのは難業で三日かかりました。そして、さらに笛吹川を逆行した高瀬舟は、堤合(ごあい)から油川を経て濁川(にごりがわ)を上り甲府の街のど真ん中の深町尻に着いたのです。
今の笠森稲荷神社のところには、荒川の三つ水門から水を引いた広い舟着場がつくられており、毎日四、五隻の曳き舟が着き積荷がさばかれておりました。
干物や生き魚、うなぎが深町についたという話は人気を呼び、見物人が手弁当で押し寄せたほどでした。塩は吉字屋本店で一手に捌かれ、うなぎは八木養魚場が扱って街のうなぎ屋で蒲焼に変り、干物こんぷの類は海産物店の店先に、生魚は鮮魚商の手に移り、街を大いに賑わせました。
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富士川の舟運は、東は石和の鵜飼橋、西は韮崎の船山橋にも着きました。韮崎宿の繁昌も富士川舟運のおかげで.風のない時は川辺りを綱で引いたとのことです。馬の背なら塩なら八袋(約48キログラム)ですが、高瀬舟なら三十袋は積め、毎日深町から着いた四、五隻の舟からは、かなりの生活物資が運ばれたのです。
当時、舟運は唯一の輸送機関でありました。しかし中央線の開通(明治三十六年)は輸送機関の大革命を起こしました。そのために千隻もあった富士川の舟が百五十隻に減り、さらに身延線の開通で深町までの舟もとうとう姿を消したのです。
当時の船着場は深町の早川大作さんの前でしたが、舟運が姿を消した濁川辺りは、赤トンボの飛ぶ姿にも、愛宕山のドンの響きにも、なぜか淋しげなものがありました。
山梨県連合婦人会 編集・発行(平成元年)「ふるさとやまなしの民話」
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笠森稲荷大神社のある辺りは、『甲府城』へ物資を輸送した富士川舟運の船着場の一つで、笠森稲荷大神社は舟旅の安全祈願として建てられました。また、その当時は、長旅の疲れを癒す温泉や旅籠があったといいます。
甲府市内は濁川の暗渠化が進み、濁川の姿を見ることの出来る場所は少なくなった。住宅地を縫うように流れるこの川が、いかに生活に密着したものであったことか想像できる地です。
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笠森稲荷は平成29年11月、濁川の改修および都市計画道路(和戸町竜王線)整備に伴い、近くの天尊躰寺所有地を購入し移転しました。
天尊躰寺は武田信虎が深く帰依していた忠連社弁誉上人を開山に迎えて古府中の緑町に寺を建立。その後、天正10年(1582)甲斐武田氏の滅亡後、甲斐に入国した家康公は尊躰寺を宿泊所としました。文禄年間(1592~96)甲府城築城工事の際に尊躰寺は現在地へと移された。甲府大空襲で本尊と過去帳以外は焼けてしまったが、境内には大久保長安の墓(武田の家臣だった人で、その後家康に取り立てられ勘定奉行となり徳川幕府の中枢に登りつめた人物。あまりの出世に色々な伝説がある。尊躰寺に関するお話だけでも「尊躰寺に宿泊していた家康を暗殺しようとして捕まり、その忠義の心を家康に褒められ家臣となった」とか「尊躰寺の宿泊屋を造りその優秀さを家康に認められた」など聞いた。)がある。戦国時代の出来事を想像し、また江戸時代の町の賑わいを感じてみてください。
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濁川の改修および都市計画道路(和戸町竜王線)整備に伴い、ここに添付した写真の風景はもう見ることが出来なくなりました。写真の時は既に舟が通れるような深さではありませんでしたが、この川筋を通って各地からの荷物が甲府に運ばれていた時代がありました。
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