物語
Old Tale
#1214
片目蛙
ソース場所:富士吉田市上暮地7丁目888 神明社
●ソース元 :・ 内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
●画像撮影 : 2017年06月28日
●データ公開 : 2017年06月29日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概要] 富士吉田市上暮地の神明神社は以前梅久保いうところにあった。この頃、梅久保の神社本殿裏側にはすべすべした、普通の水とはちょっと違う清水が湧き出していた。この水は目の怪我や、体の傷、できものにも効く聖水だった。
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片目蛙
富士吉田市上暮地の氏神、神明神社は以前梅久保いうところにあったのだが、その梅久保に神社が鎮座するようになった話である。
この氏神様の敷地となったところには、どこから湧き出るのか全くわからないが、絶えず水がにじみ出し小さな池ができていた。梅雨時ともなるとあたり一帯いずこからともなくひき蛙が集まり、「ゲロゲロ」と賑やかな声をたててのどかさを感じさせるが、その実、そう絶な蛙合戦をくりひろげるのである。
死闘の結果、蛙の体から出るぬめぬめした液を含んだこの水は、とてもすべすべしてふつうの水とはどこか変っていた。
昔々ある日、一人の神様は自分の住むところを求めて上暮地にやってきた。わずかだがたえず水が湧きでる梅久保の地が気に入り、小さな社殿を建ててあたりを開墾し、稲や麦や大豆、黍などをつくった。あるとき黍畑の手入れをしていたところ、黍の穂先が眼に入り、眼に傷がついたのか痛くて痛くてどうにもならなかった。二日たち三日たっても治るどころか真赤にはれあがり目はあけられないようになり、痛みは増すばかりであった。とにかく眼を冷やさないといけないと思って、蛙の棲む池ではあったが水を汲んで眼を洗ったり冷やしたりした。ところがどうしたことだろう、冷水がきいたのか霊水だったのか神様の眼はみるみるうちに快癒した。
神様は不思議な水があるものだと思って、あたりをキョロキョロすると、周囲にいたひき蛙の目はみんな片目になっているではないか。これをみた神様は、「私よりもえらい大神さまのおはからいで、ひき蛙の目と取り替えっこして私の目をなおしてくれたのだ」と悟った。
神様は村人に
「神様の身がわりとなったひき蛙は神様のお使いであるから、決してとらぬように」
と命じると共に、神明神社本殿の裏から湧き出る水を、傷に効く霊水として宣託した。
村人は霊水の湧くこの地を聖地として大切にしたが、この水は目の傷に効くばかりでなく、水を汲んできて湯に湧かし、でき物の出たところをひたしていれば必ず効能があることがわかった。それもそのはず、ガマの膏薬が傷に効くように、ガマの油がたっぷりとまじり込んだこの水は、傷薬として最適な効能をもっていたのであった。
氏神様は目の傷が治ったとはいっても片方の目が細くなった。それで上暮地の人は皆、目がどちらかが細いといわれ、また、神様までがけがをしたくらいだから黍は作らないという慣しが生れ、その習慣はつい最近まで続いていたという。
内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
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