物語
Old Tale
#1285
奈良子の門ひのき
ソース場所:大月市七保町奈良子用沢
●ソース元 :・ 内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
●画像撮影 : 201年月日
●データ公開 : 2017年12月08日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概要] 奈良子を開いた人の話。昔、狩猟名人の猟師が何日も獲物を追い、姥子山の山奥で雪に閉じ込められてしまった。うまい具合に、大昔に人が住んだと思われる岩穴を見つけ、中にあった丸石を神の御玉として祀り、岩穴を出ることができぬまま正月を迎えた。門松を立てようにも手近にはヒノキばかりだったのでヒノキで門松を造って正月を迎えた。雪に閉ざされてから、あれほど追いかけた獲物が、向こうから岩穴に飛び込んでくるようになったので、飢える事もなかった。猟師は丸石のご加護を感じた。春になり、丸石を抱えて猟師が山から下りてくると、獲物に恵まれた良い土地が有った。そこが奈良子で、猟師は家族を呼び寄せ、家を造り、田畑を切り開いた。次第に人々が集まり奈良子の集落が出来たと云う。
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奈良子の門ひのき
大月市七保町奈良子に伝わる話である。狩猟の名人と呼ばれた猟師がいた。猟師はいつも一人で猟に出かけた。シカやイノシシを追って山から山へ、獲物と巡り合えなければ、何日でも足跡をたどり追い続けた。
ある年「今度の獲物はこれだぞ」と、いつものように誇らしく持って帰れるものはなかったので、七日も獲物を追い続け、どこをどう歩いたものか、姥子山の中の小沢という山奥まで来てしまった。あいにく雪になったが、猟師は喜んだ。「獲物の足跡がたどりやすくなるぞ」「これで帰れるぞ」と期待に胸をふくらませて、雪のやむのを待つため、ねぐらを探した。うまい具合いに岩穴が見つかった。枯れ草を集めて野宿するより、岩穴の方がずっと暖かく、第一、雨や雪の心配がなくて、具合がよかった。
ところが、初雪だというのに思いのほかの大降りで、道など全く分からなくなり、危険を伴う猟など、とてもできるありさまではなくなった。三日もすれば山を降りれるようになるかと思ったが、また雪が降り重なって、とうとう岩穴にとじこもることを決意した。
岩穴には大昔に人でも住んだらしく、土器のかけらや、すり石の丸石があった。猟師は先史時代の人の加護を得ようと、丸石を岩穴の奥に飾り神の御玉になぞらえて、日夜わが身の安全と、残してきた家族の無事を祈った。岩穴から出ることもできぬまま正月を迎えたので、門松を立てようと思ったが、一面ヒノキ林で松が得られなかったため、やむなくヒノキの門飾りをした。土産神へのお参りはできないので、丸石を土産神と思って、正月の初参りをした。
岩穴近くの沢水を汲むにも不便であるし、雪で岩穴の入口がふさがれでも困るので、岩穴のまわりの雪をかきわけでおくと、猟師があれほど求め追い続けたシカや兎が、獲物の方からやってきた。一面深い雪に閉され餌がなくなると、シカや兎は敏感な嘆覚で雪の下からのぞいてみえる枯葉の勾いや、土の匂いをかぎつけてやってくるのであったが、それと気付かぬ猟師は朝夕欠かさぬ丸石礼拝による神の加護であるとかたく信じた。こうして食べ物にはなに不自由なく、また、ヒノキはなまでもよくもえるので、異常な冬であったが寒さにうち震えることもなかっだ。
春になり雪が解けると、猟師はご神体とした丸石をいだいて山を下り奈良子に出た。奈良子は獲物に恵まれた所で、ここを住居としようと、平地を求めて家を造り、家族を呼んで田畑を切り開いた。やがて家が増えはじめ、集落ができていった。
村人は最初に村を開いた人の命を守った丸石を、土産神のご神体として祀り、正月はヒノキで門を飾ることにした。以来今に至るまで、奈良子の用沢では、正月飾りは門ヒノキである。
内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
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