1287│河童の知恵②河童と夕顔
ソース場所:都留市戸沢
●ソース元 :・ 内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
●画像撮影 : 201年月日
●データ公開 : 2017年12月08日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
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[概要]
河童の知恵②河童と夕顔
禅宗の坊様との知恵比べに負けて松留の淵を出た河童は、また禅問答を仕掛けられてはたまらないので、禅宗の坊様のいない村の淵を求めて川をさかのぼった。ところが郡内には禅宗の寺が多いのでなかなか安住の場所が見つかちなかった。桂川の支流・玉川(都留市)へ入り、戸沢の東の沢、西の沢の合したところにある大道淵を見つけて、ようやく棲みついた。
坊様から「今後いたずらするな」と言われても、河童だって生きていかねばならぬ。約束上、人の生き血を吸うことだけは断じて止めねばならぬ。止めねば河童道にそむく。河童にだって意地というものがある。が、意地ばかり張っていては腹がへってどうにもならぬ。岡のものをたべるなんて情ない次第となったが畑の作物を失敬しては、食をつないでいた。
村人はこのごろ畑が荒らされて因ると言っていたが、ある日豊七が畑に出て芋を堀っていると、尻をなでる者がいるので驚いて振り向くと、頭が皿のように平らで顔に口ばしを持った裸の子が逃げて行くではないか。豊七は、畑荒らしの犯人は河童だと悟った。河童を退治しないと淵へ引き込まれたり、畑が荒らされては因ると一計を案じた。
翌日、豊七は肝を抜かれては困るので、尻に鉄びんのふたを当てて畑へ出た。予期した通り河童が現れて「おじさんの尻は鉄か鉄か」と尻を叩きながら話し掛けた。豊七は「いたずらしないなら、たべ物をやろう。好きなものは何か、嫌いなものは何か。明日持ってきてやるぞ」と言うと「夕顔の汁は嫌いだが、人間の生き血は好きだ」と言う。
「人間の生き血をやるわけにはいかぬ」と言うと「それなら猪か熊の肝がほしい」と言うので「肝ならなんとかしよう」と約束した。
豊七は翌日、夕顔の汁で煮た猪の肝を約束通り河童に与えた。河童は肝をうまそうに食べていたが、突知はね上り、一目散に駆け出し淵へ飛び込んだ。夕顔汁にあたったのに気付いて、水をいっぱい飲んで吐き出すためであった。
淵の水は赤く染まり、河童は死んだかと思ったが、それでもしばらくして浮いて出て「うそつき」と言った。豊七は「うそは言ってないぞ。好きなものは何か、嫌いなものは何か。明日持ってきてやると、両方持ってくる約束をしたのに、お前が勝手に好きなものを持ってきてくれると勘違いしたのだろう。約束通りもういたずらするな」と言った。
まんまとだまされた河童だが、人間の知恵にはとてもかなわぬことを改めて知り、戸沢もやっぱり棲めるところではないと、戸沢川を下り菅野川を経て再び桂川を遡った。
内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版