物語
Old Tale
#1545
千丁木 [センチョウギ]
ソース場所:布引山 早川町保
●ソース元 :・ 「早川のいいつたえ」第一集 著者:三井啓心 出版社:㈱上田印刷 出版:平成7年8月1日
●画像撮影 : 年月日
●データ公開 : 2020年08月19日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概要] 山梨県早川町と静岡県静岡市葵区の境にある尾根伝いに連なる笊が岳、布引山、生木割山。広河原から向かうと健脚の登山家でも片道10時間以上かかると云う深山ですが、その眺望は長い道のりに見合う素晴らしさと聞きます。 その布引山に不思議な大木が有ったと云います。お上の命令で切り倒すことになりましたが、とても一日で切り倒せるような木ではなく、しかも、翌日行ってみると伐ったはずの場所が元通りになっていたと云います。
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馬場[バンバ]・老平[オイダイラ]のいいつたえ
『千丁木 [センチョウギ] 』
山登りの好きな人で、笊ヶ岳を知らないものはないけれども、その尾根づたいに布引山[ヌノビコヤマ](二五八三メートル)があります。
頂上に近いところは、原生林で、かもしかが飛び歩いています。老平や馬場からはよくこの山が見え、雪をかぶった時などは、神々しいくらいです。
この山に、ものすごい大木がありましたが、それをお上の命令で切り倒すことになり、山し[衆]たちが大ぜいのぼりました。腕自慢の山しのひとりが斧をぶっこんでみると、かたいのなんのって、はねかえって手がしびれました。でも、そこは長い間山仕事のよてて[じょうず]いる連中ですから、なんとか三分の一ほど切って、夕方下の小屋に帰りました。
次の日、大木のところに来てみると、木はすっかり元どおりになっています。「こんな馬鹿っことん[ことが]あるかえ。」と、山したちは驚きながらも、その日またからかって[仕事をして]半分ほど切りましたが、翌日見るとまた元どおりです。
「こりあへんだ。」というわけで、山しがその晩、大木から少し離れたところで野宿をしました。すると真夜中、ざわざわとさわがしい音がするので、星明りに目をこらしてみると、たくさんの木の精が集まって、コッパやのこぎりくずを集めては、切り口へ張り付けながら、「早くしろ、夜ん[ガ]明けるぞ。人間がコッパだあ[や]、切りぬかを燃さなんどうで[だから]よかったとうわ。燃されりあおしめえ[おわり]だわ。」と話しています。
それで元にもどったのかとわかった山しは、次の日から木を切ったあとのくずを、きれいに燃してしまいました。
案の定、木は元にもどらず、三日目に地響きをたてて倒されました。倒される晩、木のてっぺんに、気味の悪い光がともり、うらむような声や、泣き声が山のほうから聞こえ始め、やがてそれが、馬場や老平の裏山の木にも伝わって村のしは一晩中、眠れなかったということです。
倒された木からは、角材が千丁もとれたということで、そんなことからこの山を『千丁木』とよんでいますが、荒っぽい山したちも、このことがあってからは、どうにも気が落ち込んでしばらくは仕事もできなんだ、と伝えられています。
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山梨各地に伝わる昔話や伝説、言い伝えを収録しています。昔話等の舞台となった地域や場所、物品が特定できたものは取材によって現在の状態を撮影し、その画像も紹介しています。