物語
Old Tale
#0313
長源寺の大蟹
ソース場所:山梨市万力3200 長源寺
●ソース元 : ・ 山梨県連合婦人会 編集・発行(平成元年)「ふるさとやまなしの民話」
・ 現地説明板
・ 甲斐志料集成3(昭和7-10年) 甲斐志料刊行会 編 裏見寒話 写本六巻五冊 野田成方(甲斐志料刊行会 編『甲斐志料集成』3,甲斐志料刊行会,昭和7至10. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1240842 )
●画像撮影 : 2015年09月11日
●データ公開: 2016年06月24日
●提供データ: テキストデータ、jpeg
●データ利用: なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概 要] 山梨市の長源寺には化け物を問答で見破って、退治した「化け蟹問答」のお話が伝わっています。お話だけでなく化け蟹の爪痕が残っているとされる大石もあります。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
長源寺の大蟹
今から、四、五百年ほども前、万力山地のはずれに長源寺という寺がありました。
村人たちはこの寺にもう何人もの坊さんを迎え入れましたが、その夜のうちに逃げ出す者もあれば、行方不明になる者もあっていつの間にか怪物の住む寺として恐れられるようになりました。
たまたま通りかかった諸国行脚のお坊さんがこの話を聞いて、「村人のためにこの怪物を退治してあげよう」と言って、村人の止めるのもきかずに寺に泊まりこみました。
旅のお坊さんは本堂にどっかりと座って夜が更けるのを待っていますと、夜中も過ぎた頃、大きな音とともに本堂が揺れ始めました。お坊さんがゆっくりと目を聞くと、月の光に照らし出されて、顔や手足に針金のような毛の生えた、とても人間とは思えないものが立っていました。「そこにいるのは何物だ。」とお坊さんが大声で叫ぶとその怪物は、これもまた地に響くような声で「四足八足両眼天に差すとはいかに。」と問いかけてきました。その言葉を聞くと坊さんは、
「貴様はカニの怪物だな。」
と言うが早いか、持っていた錫杖で叩きつけました。すると、たちまち怪物 は外へ逃げ出してしまいました。翌朝、村人たちが心配して寺を尋ねると、お坊さんは昨夜の様子を話してくれたのでした。
本堂には血の跡が点々とし、村人たちがそれを追って行くと、谷川の奥の洞穴で二間四方(およそ四メートル四方)もある大ガニが甲羅を割られて苦しんでいてそれも間もな く死んでしまい、村人たちは安心して暮らせるようになりました。
人々はこのお坊さんを慕って寺に住んでもらい、のちに山号を蟹沢山としました。
今でもこの地に長源寺は建っています。
山梨県連合婦人会 編集・発行(平成元年)「ふるさとやまなしの民話」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
長源寺の化蟹
山梨市の長源寺には、次のような伝説があります。
数百年前、長源寺では妖怪が出るといわれて住職が居着かなくなってしまいました。ある時、諸国を巡っていた法印はこの地で異様な妖気を感じ、寺に泊まることにしました。夜になると不気味な声が響き渡り、身の丈3メートルある怪僧が現れて法印に問答を仕掛けました。「両足八足、大脚二足、横行自在にして眼、天を差す時如何」法印はこれを聞くと「汝は蟹なり」と一喝しました。怪僧は四畳ほどもある大蟹となって寺の西の沢に逃げ出しましたが、法印は手に持った独鈷を蟹の背に投げつけ、甲羅に突き刺しました。化蟹は法力に敗れ、ついに沢の上流で力尽きました。すると不思議なことに、甲羅の割れ目からは五色の雲が立ち上り、千手観音が現れました。法印は感得して、寺の本尊に千手観音をお祀りしました。
この伝説にちなみ、寺の山号は「蟹澤山(かいたくざん)」といい、蟹が逃げた坂は「蟹追い坂」と名付けられました。また、寺の境内には化蟹の爪痕が残る大石もあります。 (境内説明板より)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
蟹沢村の長源寺
東郡 蟹沢村。以前の村名は何であったか、、、。今は田畑に楽し気な歌があふれ、清水は青く、素晴らしい景色の場所である。
昔、この寺の住職が行方知れずになる事が続いた。ある者は首などが残っていたが、骸は影も形もなくなっていた事もあった。又は、寺にやって来た夜すぐに逃げて二度と戻らない者もいた。又ある人は日暮れにこの近くを通ったら、沢辺に茂った葦の間から異形な者が現れて追いかけて来る。運良く坂を上って逃げ延びれば、その先まで追われる事はないが、そうでなかった者は命を失ってしまう。
そんなわけで、この寺は長い間住職がいなかった。この際、寺を壊して空き地にしたらどうかなどと村人達が相談しているところに、国中をまわっている僧がやって来た。「その寺に一泊して奇怪を見届け、妖怪を退治したい」と言う。人々は「そんな事をしなくても良い」「止めた方が良い」と止めたが、僧は聞かず、その寺で一夜を明かす事になった。
旅の僧は元々剛力ではあったが、枕元に一挺の斧を置いて泊まった。 宵のうちは異状もなかったが夜更けになると本堂、庫裡などが鳴動して、軒先からもれる月影からしわがれた声で「旅の僧よ。手四本 足八本 これは何ぞある」と云う。 僧は眠ったふりをして答えないでいると、妖怪がそろそろと近寄って来る。真っ黒なものが枕元まで這ってやって来て「手四本 足八本 これは何ぞある?」と云うのを、旅僧「蟹と心得たり!!」と跳ね起き大声一喝飛びかかり、用意していた斧を振り上げて切りつけると妖怪は逃げ出した。寺中が鳴動して木々が乱れ倒れた。
夜が明け、村人達がやって来て「もしや、あの僧は妖怪の餌食にはなっていないだろうね?」と心配しながら寺へ来ると、旅の僧は高いびきで寝ていた。 人々がゆすり起こしたら、あくびして起き上がり、昨夜の出来事を答えた。枕元を見れば血が付いた斧があり、点々と流血が外に続いていた。大勢で血の跡を辿ってみれば、洞穴の中に点々と続き、中からうめき声が聞こえた。洞内に恐るおそる入ってみると、甲が二間×四間もある、年経って全身に毛を生やしているような川蟹が背中を割られて半生半死の状態だった。その蟹を洞の外へ引っ張り出しておくと、その日の夕方には死んだ。
それから後、怪異は起こらなくなったので、旅の僧を中興開山として寺を取立て、今に続く。
今、この寺には蟹の甲が残されている。
そして、この村の事を「蟹沢村」と云い、坂を「蟹追坂」と云う。また、この沢は増水すると六~七寸位の蟹がたくさん出てくる事が有るが、この蟹は外用薬に使われるという。 (裏見寒話 追加 怪談 の項より)
このデザインソースに関連する場所
Old Tale
Archives
物語
山梨各地に伝わる昔話や伝説、言い伝えを収録しています。昔話等の舞台となった地域や場所、物品が特定できたものは取材によって現在の状態を撮影し、その画像も紹介しています。