物語
Old Tale
#1277
狼の恩返し(上野原市秋山遠所に伝わるお話)
ソース場所:上野原市秋山遠所に伝わるお話
●ソース元 :・ 内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
●画像撮影 : 201年月日
●データ公開 : 2017年12月05日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概要] 山犬と心を通わせたお話はわりあいあちこちにあるが、ここでは狼に恩返しをされたお話。
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狼の恩返し
秋山村の遠所(えんじょ)の農夫は、冬の間は王の入りの山で炭焼き仕事をしていた。この農夫は大へんな働き者で、朝は東の空が白み始めるころから、夕方は星が見え始めるころまで働いた。近ごろは狼が出るようになって、夜は危険なので、なるべく早めに仕事を切り上げ、夕方は家で炭俵を編むなどの仕事をしていた。
ある日、農夫は仕事に手間取り、帰りが遅くなった。狼にでも出くわさねばよいがと思っていたが、どうやら何事もなく家の灯影が見えるところまできた。やれやれよかった、ここまでくればもう安心と一休みして、好きなたばこでも吸おうかと石に腰をかけた。
すると、何やら息遣いが感じられて、火が動くように見えたので、これ幸いと「火だねを貸してくれ」と言って、きせるをくわえた口を横へ突き出したが、そのまま体が凍りついた。血の気が引くのが分かった。足はがたついた。手はわなわなと震え、銜えていたきせるは落ちた。逃げなければという思いが頭をよぎったが、体はいうことをきかなかった。狼が自分の横で顔を押しつけるようにして口をあけたまま息をしているのである。
ほんの短い時間だったのか、あるいは小半時もあったのかよく分からなかったが、次第に落ち着いてくると、どうも襲ってくる気配はないのである。そうと分かると体に自由がもどり、少しずつ離れようとすると、狼はほおずりするように、かえって首を農夫の手に押しつけてくるのである。
すっかり心にゆとりができると、もともと犬を飼っており大の犬好きの農夫は「狼だって犬と同じようなものだ。それにしても人なっこい狼さまだ」となでてやると、首のところがはれているようだと気がついた。そっと首を押してやると頭をひっこめて手をさけようとするのだが、手を離すとまた首を押しつけてくるし、ロを大きく開けては何やら誘うような格好をする仕草が「のどを見てくれ」と言っているようなので、思い切って手をのどの中へ突っ込んでみると、獲物の骨がつかえていたので、取り出してやった。
とたんに狼は一丈(三メートル)ほど跳び上った。農夫は一瞬、狼が野性にもどったと思った。が、狼はそのまま地に伏し腹を上にむけて農夫を見ては首をゆすった。犬の習性がら、狼も農夫に服従の敬意を表わしていることを察した。近寄り腹をなで、骨のささっていたのどをさすってもなされるままになっていた。「よしよしもうお帰り」というと狼は何度も振り返り、尾を振って礼をする格好をしながら、やみの中に消えていった。
農夫があくる朝「オオーン」という声に起きてみると、戸口に一匹のウサギが置いてあった。農夫は、これは狼さまのお礼だと悟った。
内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
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