物語
Old Tale
#0348
一つ目入道
ソース場所:都留市上谷3-6-30 長安寺
●ソース元 :・ 内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
●画像撮影 : 2015年07月13日
●データ公開 : 2016年06月24日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概 要] 都留市谷村の長安寺裏にカンカン岩と呼ばれる場所があった。そこを一匹の古狐がねぐらにしていた。その古狐は人間に化けたり、怪物に化けたりと人を脅かせて食べ物にありついていた。ある時、向こうから杖を突きながらやって来る人を見つけて、「一つ目入道」に化け驚かそうとした。しかし、その人は少しも驚かず「一つ目がどうした?こちらは盲人で、一つも目なんかないぞ」と言った。古狐は驚かすつもりがその人の杖で打ちすえられてしまった。その時、一つ目入道の着物の裾が破れ落ちた。気が付くと、その裾の布切れは白い毛玉に変わっていた。その毛玉は、長安寺の奇物として見世物にされたというお話がある。
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一つ目入道
戦国の世、風雲急を告げるとき、近隣諸村へ早鐘を撞いたことを示す「鐘山」「鐘撞山」などの地名が各地にある。ここ都留市谷村にも小山田氏が使った烽火台のすぐ近くに鐘音がそのまま地名として残ったと思われるカンカン岩をねぐらとして一匹の古弧がすんでいた。
狐は劫を経ていたので、自分で獲物を捕るのは面倒くさく、もっぱら人を化かしては腹を満たしていた。
お祭り帰りの酔っぱらいから、お土産を奪うぐらいはたやすいことで、若者に義太夫を語らせるような優雅な遊びまでやったが、ときには失敗もした。
カンカン岩続きの長安寺山の下にある長安寺の近くに豆腐屋があった。この豆腐屋の銭箱の中に木の葉が一枚だけときどき混ざるようになった。はじめのうちは何かのはずみで木の葉が入ったのだろうと思ったが、度重なるので狐の仕業ではなかろうかと注意するようになった。受け取った銭は、いくら見ても本物で、どれが木の葉に変るのか全く見分けがつかず、受け取った銭で正体を見分けることはできなかった。だが不審なことがおきるようになったのには思いあたることがあった。というのは、近ごろ近くに越して来たという娘が油あげを買いに来た日は、翌朝になると銭箱の中に木の葉が見られるのである。狐があの娘に化けているに違いないと、犬をけしかけたので、正体が分ってしまった。
それで今度は、人を驚かせて持ち物を奪ってやろうと、何か食べ物を持っていそうな人を見つけては、一つ目人道に化けて木陰から飛び出し「オレは長安寺の一つ目入道だぞ」と脅し、まんまと食べ物を手に入れていた。
ある日、いつものように長安寺大門にひそんでいると、向こうから小さいふろしき包みを背負った男が杖を突きながらやってきた。「近ごろ一つ目人道が出る。」といううわさが広がってしまい、すっかり人通りが少なくなり、食べ物が手に入りにくくなっていたので、狐は待ってましたとばかり一つ目入道に化けて飛び出し「オレは長安寺の一つ目だぞ」と脅かしたが、当の男は驚きもせず「オレは一つもないぞ」と言うのである。
近寄ってみると本当の盲目で、盲人をはじめて見た狐の方がびっくりした。しかも盲人は杖を振り回し、逃げようとした一つ目人道の衣をパシッとたたいたので、衣の端が裂けて散った。一つ目はたちまち狐の正体を現し、長安寺山からカンカン岩の方へと逃げ去ったが、ちぎれた布切れは真っ白な毛玉となって残された。
毛玉はその後、長安寺奇物として残され、巡見使の高覧に供された記録があるが、いま伝わるのは話のみである。
内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
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