物語
Old Tale
#1501
姥子さま
ソース場所:大月市大月町真木沢中
●ソース元 :・ 山梨県連合婦人会 編集・発行(平成元年)「ふるさとやまなしの民話」
・ 内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
●画像撮影 : 201年月日
●データ公開 : 2018年05月07日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概要] 大月市真木には「姥子さま」と呼ばれる真綿の帽子をかぶった石が祀られている。これは昔、大変信心深く、自分のためでなく、周りの人々が幸せに暮らせるよう、いつも一心に祈っているお婆さんがいた。ある時、お婆さんの夢の中に神様が現れ、「明日の朝、宮の沢に行きなさい。そこに神霊の宿る石がある。社は無くて良いから祀れば病を治す」と云う。行ってみるとお婆さんにはその石がはっきりとわかり、早速お婆さんの出来る範囲で大切にその石を祀った。お婆さんの下へは沢山の子供たちが集まったが、いつしかその子供たちが大病に苦しむことが無くなっていることに村人たちも気づき、お婆さんと共に、その石を「姥子さま」と呼んで、大切に祀るようになったという。
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姥子さま
昔々のお話です。
ちょうど今から二百五十年ほど前、今の大月町が真木村と言われたころのことです。この真木村の沢中に、はなという大変信心深く、心の優しい、おばあさんがいました。
おばあさんは、毎日毎日人さまも自分も、どうか病気などせずに、村中が幸福に暮せるようにと神さまにお願いをしていました。
ある夜のこと、おばあさんは夢を見ました。それは金色の光の中に白い着物を着た、一人の老人が現れて「わしは明日の朝宮ノ沢にいる社はいらぬから、そのままわしを神として祀ってくれれば、どんな悪い流行かぜでも、きっとなおしてしんぜよう。」と言って消えてしまいました。ハッとして目ざめたおばあさんは、東の空の白むのを待ちかねて、示された川へ行ってみました。
すると今まで見たこともないふしぎな形の石がありました。
おばあさんは「ああ、ありがたい。私の日ごろの願いを神さまが聞きとどけてくださったのだ。」 とうれしくて、うれしくって、仕方がありませんでした。さっそくその川の近くの林にある大きな石の陰に、雨にかからないように、そのふしぎな石をお祀りしました。
そうしてその頭のあたりにやわらかい真綿をかけ、前だれも掛けてあげました。
その日は一月二十四日でしたが、とても暖かい日でした。おばあさんは煎り豆をして、近所の人や子どもを誘って賑やかにお祭りをしました。
それから後は、どんな悪いかぜが流行っても、この神さまにお参りし、真綿の帽子をお借りして、かぜで苦しんでいる子どもの首に巻いてやると、せきも次第にらくになりました。
また、この宮ノ沢の水は目や喉の病気によいといわれ、人びとはびんにんれて持ち帰ったという話もあります。
この話を聞いて、遠く甲東村(今の大月市)の方からも、この真綿を借りに来たそうです。
かぜがなおると新しい真綿と、ブリキでつくった鳥居を持ってお礼詣りをしました。
今でも姥子さんは新しい真綿の帽子をかぶり、前だれをかけ、その前にはたくさんの鳥居があげられています。
山梨県連合婦人会 編集・発行(平成元年)「ふるさとやまなしの民話」
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姥子さま
むかし、真木村(大月市)に心やさしく親切な老婆がいた。老婆は「人間生きている間に何か善行をしておけば、あの世へ行っても必ずお釈迦様の救いがあり、極楽へ行ける」と固く信じていた。
だが、金持ちでもない老婆にできることといったら、人に親切にすることか神仏を拝むことくらいであった。
だからほかの人が「私の病気が治りますように」とか「長生きしますように」とか「お金持ちになりますように」と拝むところを、老婆は「村中の人が病気にならず、幸せな暮らしができますように」と拝むのであった。
老婆は、村の子供を相手にしてはよく地獄の話をした。老婆の話と言うのは「嘘をつけば閻魔さんに舌を抜かれるぞ」なんていう簡単な戒めではなく、お坊さまでもなかなかできないような話であった。
「あんたは東の家の子だね。今日は弟と喧嘩しなかったかい。あんたは裏の家の子だね妹の飴をとりあげたりしなかっただろうね、悪いことするとみんな地獄の十王様が見ていてな、悪をした数だけ地獄の責めが多くなるんだよ。きょうは三七日の裁判官 宋帝王のお話をしようね。動物をいじめたりトンボを殺したり、蛙をつぶしたりするとあなた達が死んだあと、この前話した三途の川を渡ったり脱衣婆にまっぱだかにされ針の山や火の地獄を通ってきてもまだまだ罪滅ぼしをさせられるんだよ。・・・」と話し出し、宋帝王の判決で鬼たちが血の池地獄に悪いことをした人をほうり込み、岸につこうとしても押しもどし、罪の重さだけ長いことおぼれさせ、責めが終っても罪の重い者にはさらに、首かせをしておいて刺股や槍で体を突いたり切りきざんだりする様子を話した。それで、悪いことをするような子供は真木村には一人もいなくなった。そんなわけで老婆は知らず知らずのうちに、善行をしていたのであった。
このように善行を重ねるし信心深いので、とうとう神様が老婆の願いをかなえる日がきた。
ある晩、老婆が眠っていると、白髪の老人が現れて「宮の沢へ行ってみよ、神霊の宿る石を授けよう」と告げたのである。夜明け早々に行ってみると、昨日まではなかった石があった。石は達磨とも見えるし、まるまると太った子供とも見えた。
老婆には祠をつくるゆとりはなかったから、この石を岩かげに安置し、真綿の帽子をかぶせ、前だれをかけてやった。
近所の子供を誘い、いり豆をふるまい、お祭りのまねごとをした。日ごろの信心から「この石を拝めば風邪を引かないよ」と言った。石を拝んだ子供は、本当に風邪をひかなかった。また、風邪で苦しんでいる子も、母親が代参し、真綿の帽子を借りて首に巻いてやれば、やがて治った。病気が治ると、人々はお礼として新しい真綿の帽子を石にかぶせ、小さな鳥居を奉納するようになった。
老婆の善行と信心は見事に実り、いまも「姥子さま」とあがめられて、老婆は極楽の国にいるようである。
内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
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