物語
Old Tale
#0310
鬼の湯
ソース場所:甲府市湯村3-15 柳屋従業員宿舎P内「谷の湯」跡
●ソース元 :・ 裏見寒話 巻之三 温泉 並びに 鉱泉 の項より
甲斐志料刊行会 編『甲斐志料集成』3,甲斐志料刊行会,昭和7至10. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1240842 (参照 2024-05-24)
・ 現地説明板
●画像撮影 : 2015年11月13日
●データ公開 : 2016年06月24日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概 要] 湯村温泉郷に古くから有った源泉「谷の湯」は、別名「鬼の湯」とも呼ばれていた。江戸時代、甲府勤番として赴任した野田成方が、在任した享保九年から宝暦三年までの三〇年間に見聞した甲斐国内の事象についての記録「裏見寒話」に「鬼の湯」と呼ばれる由来になったお話が書き残されている。
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湯村 湯島村(*後陽成天皇の第8皇子である良純入道親王が、この地に蟄居させられたので、湯島では島流しの様だと、湯村としたと伝わっている。この文章「裏見寒話」が書かれたのが、良純親王の甲斐での幽閉時期 寛永20年―万治2年[1643-1659] より百年弱後の 享保9年―宝暦3年[1722-1753] であるが、この時は湯島村と呼ばれていたようです。明和5年の百回忌に際して名誉回復が図られたので、それ以降に島の字を消したのではないでしょうか?)。甲府よりおよそ一里西の方向。
この温泉は腫物、濕病、疥癬、キズ等に効果がある。湯壺は藁屋根が葺かれていて、脇は厚板がはめられ仕切られている。
昔、家康公の御領分だった頃の話。戸田能登守寺社奉行勤役の時、この地に湯治して効果があったと言っていた。山に熊野権現の社がある。六十五段登るのだが、これを城山と云う。山上には石垣や池などもある。
昔、御旗本に多田三八と云う人がいて、湯村温泉に湯治しようと、御暇を願い出て、江戸表から甲斐に向った。 天目山(今は天目山下に江戸道[甲州街道]は無い)の麓を乗掛馬で通った時、杉の大木の枝上より大きな腕が伸びてきて、「三八」と呼びながら彼の頭を掴む。三八も腕に覚えのある剛の者だから、瞬時に腰の刀を抜いて頭上をなぎ払った。すると九尺ばかりの翼が片翅落ちて来て、怪物はどこかへ逃げ去った。それで三八はその翅を持って湯村まで来て湯治していた。
ある雨降りで風も激しい日、外から一人の巨体の法師がやって来て入浴した。見るとかなりの刀傷をおっていた。そばにいた人が「貴僧の怪我はいかがしたものですか?」と問うと、法師が「この間、多田三八と云う者に少しいたずらをした時、負った傷だ。だから入浴して治そうと来たのだ。」と云ったので、三八は「三八ここに有り!」と云いながら刀を抜いて飛びかかった。法師は驚き、地蔵の山に走って逃げた。三八はこれを追ったが、ついにその姿を見失ってしまった。今でも多田氏はこの時の片翅を所持していると云う。この時から、この湯を「鬼の湯」と云うようになった。
(*ここで、「裏見寒話」著者の野田成方は、多田三八が江戸表から甲州入りした道程について説明している) 昔から江戸街道(甲州街道)が天目山の下を通った事は無い。笹子峠から一里余り来て、鶴瀬の関の直下から、少し北に分かれる道がある。これにより初鹿野を過ぎ、天目山へ行くことが出来るが、鶴瀬より田野へ一里半余り、天目山へ三里余りと云う。多田氏は秩父の方か川越の方より、わき道を通るか、田野からはわき道が有って秩父や武蔵へも出る。
「裏見寒話」 巻之三 温泉 並びに 鉱泉 の項より
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湯村八蹟「谷の湯」の跡
湯村の古い源泉の一つで「谷の湯」と云われた温泉がここにありました。 この場所に昭和三十五年頃まで湧いていたと云われております。 名前のいわれは不明ですが「鬼の湯」がなまったものではないかと云われております。「鬼」は神通力を示しているのでしょう。 塩沢寺門前にあって湯量の多い源泉で、内湯施設と富士野屋内湯に引湯しており、その湯尻は流れて「馬の湯」と呼ばれる。昔は人間よりも大切にされた農耕馬の疲れを癒す 馬の温泉療養に使われておりました。(馬の湯は現 和泉愛児園内)ここも昭和のはじめボーリングして野良湯、富士野屋、柳屋などの源泉がまわりに出来て共同浴場はおわりになりました。 湯村ふるさと会(現地説明板より)
湯村温泉郷(柳屋とNACの間にある駐車場)に「谷の湯」跡の表示があるが、ここが「鬼の湯」があった場所といわれている。 (谷←鬼が訛った)
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甲府市湯村の地は、東京国立博物館所蔵の葛飾北斎筆「勝景奇覧 甲州湯村」に描かれる古くからの温泉地です。
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