


物語
Old Tale
#1247
猿と蟹の餅競争
ソース場所:甲府市古関町 に伝わるお話
●ソース元 :・ 土橋里木(1975年)全國昔話資料集成16甲州昔話集 岩崎美術社
●画像撮影 : 201年月日
●データ公開 : 2017年10月24日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。


[概要] ある時、猿と蟹が仲良くお出かけ。山のてっぺんからあたりを眺めると庭で餅つきをしている家がありました。猿と蟹は餅が食べたくなって悪だくみ。蟹がその家の座敷に忍び込み、昼寝中の子供の手を蟹のハサミで挟みます。子供は痛くて火のついたように泣くから、餅つきしていた人たちが慌てて家の中へ入ります。そのすきに猿が臼ごと餅を担いで山へ駆けあがる。蟹も追いつき、どうやって分けようかと考えているうちに、猿は独り占めしたくなった。「臼を山から下に蹴り落して、先に臼に追いついた者が一人で食べよう!」と蟹が文句を言うのも聞かず、臼を蹴り落した。猿は勢いよく飛び出し臼を追った。蟹は仕方なく後から下りて行った。臼が山のふもとに止まると猿はすぐに追いついて中を覗いた。なんと、餅は山を臼が転がり落ちている間に、あちこちにこぼれて、臼の中は空っぽだった。 蟹は猿に差を付けられ、やれやれと山を下っていくと、そこここの葉っぱに餅がいっぱいへばりついている。それを喜んで食べ、また少し行くと木の株にも餅がいっぱいついている。それも一人で食べたら、お腹がいっぱいになった。そのうち、餅を探しながら上がってきた猿と会い、猿は自分は一口も食べられなかったのに、蟹がお腹いっぱい餅を食べたと聞きうらやましがったとさ。
猿と蟹の餅競争
ある時山ン中の猿と蟹とが、今日は良エお天気だから、どこイかアソビイ行かざアと行って家を出かけた。そして、ここで言えば上ン山のような所へ登って、そこからあたりを眺めると、ちょうどその日はお祭りだと見えて、麓の家の裏の庭先に人がいて、ペッタンペッタンと頻りに餅搗きをしている。「あの餅をどうかして盗ってくいたいもんだなア」と猿が言うと、「ウン、食いたいもんだなア」と蟹も言った。
そいから二人は山を下って麓の家に行き、まず蟹がそーっと座敷へ上がって、そこに寝かいてあった子供の手を鋏んだ。すると子供は痛くて眼を覚まいて火のつくように泣き出いた。裏で餅つきをしていた人たちは、ムシュウの(急な)子供の泣き声を聞いてびっくりして、何事ンできたかと思って、あわてて家ン中へ駆け込むと、その留守に猿が飛び出いて、そこにあった餅を臼ごちり(臼ごと)引っかつぎ、エンヤラエンヤラと山へ駆け上がってしまった。その後から蟹もようよう這い上げていって、山の頂上へ着いた時、二人はその餅を食うのに、分けように困って「なア、この餅をどうして食ァずかなァ」と言って、臼を覗き込みながら考えこんだ。
すると猿ン、「ただで食うも面白かァないから、この臼ゥ山から下へ転ばし落といて、二人の中で誰でも一番先イ臼ン所へ飛んでった者がみんな食うとしるじゃアないか」といった。すると蟹は「そんどオッて、俺ァお前のように早くアとても飛べン得エぬから、そんな事ァ俺ァ嫌どオ」といった。けれども猿は蟹の言うことなんかあいしらいッこなんで(かまわないで)、ハイ(もう)臼をどンと突き落といた。臼は飛ンび上がり飛ンび上がり、大砲玉のような勢いでゴロゴロと転び落ちて行く。
その後から猿は、臼と同じような早さで一散に駆け下りたが、蟹は仕方ァなく、一番後からチョキチョキと這い下りて行った。
さて、臼が山の麓へ行って止まった時、猿は急いで飛びッつけて臼ゥ拾ったが、中を覗いて見たら餅は途中でみんなこぼれてしまって、臼ン中にはちっともなかった、ところが、蟹は少し行くととちゅうの草の葉に餅ンいっぱい(たくさん)ついていたから、喜んでそれを食った。また少し行くと木の株にもいっぱいついていたから、それをも一人で食べたら、せえさい(腹いっぱい)あった。するとそこへ、下の方から猿ン餅を捜しイ登って来た。そして、「どうどオ(どうだ)、ここイらに餅ン落ちてアいなんどオか」なんて聞くから、蟹ア「お前は臼の餅オ随分食ッつら(食ったろう)。俺もええ塩梅に道端に落ちていとオを拾って、腹いっぱい食うことンできとオ。うまかったなァ」と言った。すると猿ァ「そんじゃアお前は儲けたなァ、俺ァ一番下まで言って見とオけんども、臼ン中ァ空物で、餅オ一口も食う事ァできなんどオ」と、さも羨ィましいようの顔をして言っとオッて(言ったとさ)。それもそれッきりイ。
(祖母より)
土橋里木(1975年)全國昔話資料集成16甲州昔話集 岩崎美術社
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