1254│山犬と大蛇

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ソース場所:忍野村に伝わるお話

●ソース元 :・ 土橋里木(1975年)全國昔話資料集成16甲州昔話集 岩崎美術社
●画像撮影  : 201年月日
●データ公開 : 2017年10月30日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他   : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。

 

[概要]

山犬と大蛇
あるとき一人の狩人が山へ行ったらば、大きな岩の下に山犬がアカ(赤ん坊)を三つ産んでいた。
狩人はそろりそろりと山犬のところへ近づいて、「山犬どの、どうもおめでとうがした。ところで、そのアカを一つおれにくれねエかね。大事に育てるに」と言って頼むと、山犬はこちらの言うことが分かったと見えて、首をさげて承知した。
それから十二日たって、狩人は切り火で新しく竃に火をもやし、赤飯をふかして重箱に入れ、魚をそえて、山奥の岩の下に持って行った。子を育てている山犬に、それをさし出して、「さアそれじゃア、約束のアカを一つくだせエ」と言うと、山犬の母親は、三匹の子犬の尻尾をくわえて一つ一つ振って見た。すると二匹の子犬はカインカインと鳴いたが、一匹だけは少しも鳴かない。鳴かない犬の方が性がよいのである。狩人はその鳴かない子犬をもらって山をくだり、それを家に飼ってわが子のように可愛がった。子犬はだんだん育って立派な犬となり、狩人にもよくなついて、狩人が山へ狩に行くたびについて行った。
何年かたってから、狩人はその犬をつれて山奥へ行き、狩をしているうちに日が暮れて、山へ泊まることになった。家がないから、大木の洞穴にはいって休んでいると、なぜか山犬が狩人の袖をくわえて引っぱる。初めはふざけてするのだと思っていたが、だんだん強く引いて、洞穴の外へ出ようとするから、「何オしるだ、今夜はこけェ(ここへ)泊まるだぞ」と言って犬を叱った。けれども犬はやめるどころか、しまいには狂ったように吠えたてたり、狩人の袖をむしれるほどくわえて引っぱったりする。「この畜生は気でも狂ったずらか。今夜は俺を喰う気かな。それじゃア貴様の命もねエぞ」狩人は腰の出刃を抜いて、サッと犬の首を切った。
すると犬の首は飛びあがって、洞穴の上の方の怪物にガシッと喰いついた。間もなく上の方からドタリと落ちて来たのは恐しい大蛇であった。大蛇は洞穴の上の方から、狩人を呑もうとして狙っていたのである。犬はそれを知って、先から狩人の袖を引っぱって、危険を知らせたのであった。
犬の首が大蛇の喉へ喰いついているので、大蛇は苦しみもがいている。狩人は出刃で大蛇を切り殺して退治した。それから犬の死骸に抱きついて、泣いて謝まった。「申しわけアねエ。おめェは俺オ助けてくれたに、俺ァおめェを切ってしまっただ。どうか勘弁してくれろ」
明日の朝狩人は、犬の死骸を背負って山をくだり、人間と同じ葬式をして、自分の家のお墓へ埋めてやった。それから犬への申しわけに、狩人をやめて六部になり、犬の頭を笈物に入れて背負い、お経をよみながら、四国西国から日本中を遍巡ったということだ。
(南都留郡忍野村 須山まん様)

土橋里木(1975年)全國昔話資料集成16甲州昔話集 岩崎美術社

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* 話者の年齢は、採話時のもの。

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