物語
Old Tale
#1286
河童の知恵① 河童の禅問答
ソース場所:上野原市松留222 正法寺
●ソース元 :・ 内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
●画像撮影 : 201年月日
●データ公開 : 2017年12月08日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他 : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。
[概要] 上野原市松留の正法寺という寺の近くの川に、昔、河童が棲みつき、人や馬を水中に引き込んではちょいと生き血を吸う。人々は困って河童を退治しようとした。しかし、正法寺の住職が殺生はならぬと、河童と禅問答して、説法で河童を教化した。それで、松留の淵には河童がいなくなったと云う。
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河童の知恵 (一) 河童の禅問答
松留(上野原町)に禅宗の一派、臨済宗向岳寺派の正法寺がある。
正法寺の東側は鶴川と桂川の分流点で断がいをなし、崖下は探い淵となっており、河童が棲みつき、上下三里を縄張りにしていた。
河童は淵近くの川へ水遊びに来た子供や、体を洗いにきた馬を川へ引き込んでは、好物の生き血を吸った。大へんな早業で、足をすべらせて倒れたとか、泳いでいて足がつれたとか、ちょっとおぼれたなと思ったときは、実は河童の仕業で、そのほんの短い時間に巧みに尻の穴から生き血を吸うのである。たいていの場合は気がつかないが、中にはふらふらになり元気がなくなる場合もあった。
因った村人は、何とかこの河童を退治しようとしたが、相手は水中では怪力無双の水泳の達人であり、どうにもならなくて手をこまねくだけであった。村人から相談を受けた正法寺の住職は、「殺生は十戒の一つ」と、退治することを固く止め、自ら説法で河童を教化しようとした。
淵に立って経を読み、河童に話しかけた。
「お前は怪力無双、水泳の名人だが知恵は人間に及ぶまい。知恵比べをしよう。わしが負けたらお前の弟子になるが、お前が負けたらこの淵から出て行け」
と言うと、河童が水面に浮かび上がり、ひょこひょこ歩いて僧の前に座り
「俺の方が利口だ。ためしてみろ」
と言った。
禅宗の坊様相手に禅問答が始まった。河童もなかなかよくやったが、皿の水が乾いてくると力がなくなる。力がなくなると気力も弱まる。気力が弱まると禅問答もいや気がさしてくる。だが相手は禅問答に鍛えられた坊様、一向に弱る気配はない。ついにへなへなとなって、水にもどる力も失せた。
住職は河童を抱きかかえ
「よいか、村の者はお前を退治しようとしているのだぞ。知恵は人間の方が上だということが分っただろうから、退治されないように約束通りよそへ行って暮らせよ」
と言って淵に放してやった。以来、この淵に河童は姿を現わすことはなかった。
内藤恭義(平成3年)「郡内の民話」 なまよみ出版
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