物語
Old Tale
#1297
夢山稲荷と白蔵主
ソース場所:甲府市古府中町5015 大泉寺
[概要] 夢山稲荷は大泉寺の境内にある。夢山稲荷のある辺りはかつて「狐の森」と呼ばれていた。むかし、山によい香りのする梅の木があった。それを大泉寺境内に移植したところ、二匹の白狐が現れて「梅の木を返せ」とばかりに鳴き続け、死んでしまった。夢山稲荷はその白狐を祀ったものという。
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夢山稲荷と白蔵主
まずは「白蔵主」について
「白蔵主」は日本の妖怪。大阪にある少林寺に伝わる逸話があり、それが狂言「釣狐」の題材になったとされている。江戸時代に桃山人(文)・竹原春泉(絵)によって書かれた「桃山人夜話」(「絵本百物語」)には甲斐の妖怪話として述べられている。
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『白蔵主』
甲斐の国の宝塔寺に白蔵主という名の僧がいた。彼の甥 弥作 は、キツネを捕まえて皮を売って生活していた。弥作の住処近くの夢山には老いた狐がいたが、多くの子狐を弥作に捕えられたため、彼を怨んでいた。
そこで狐は白蔵主に化けて弥作を訪ね、殺生の罪を説いて狐獲りをやめさせ、金を渡して狐獲りの罠を持ち去った。しかし弥作は金を使い果たし再び金を乞いに伯父の寺を訪ねようとしたので、狐は寺に先回りして本物の白蔵主を食い殺し、自らが再び白蔵主に成りすまし弥作を追い返す、以来50年以上も住職を務め上げた。
あるときに鹿狩りが行なわれ、白蔵主は人に混じってそれを見物していたところ、キツネの正体を見抜いた犬に噛み殺されてしまった。人々はキツネの祟りを恐れ、祠を建てて「狐の杜」として祀ったという。
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この『絵本百物語』に述べられている夢山は、近世以降には「愛宕山」と呼称され、現在の甲府市古府中町にある大泉寺の寺領だった山で、大泉寺には白狐を祀った「夢山稲荷尊天」があるが、大泉寺の住職は『絵本百物語』のようにキツネが僧に化けた話など聞いたことがないという。 (村上健司:編著「妖怪辞典」毎日新聞社・2000年)
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夢山稲荷
大泉寺の境内にある。夢山稲荷のある辺りはかつて「狐の森」と呼ばれていた。むかし、山によい香りのする梅の木があった。それを大泉寺境内に移植したところ、二匹の白狐が現れて「梅の木を返せ」とばかりに鳴き続け、死んでしまった。夢山稲荷はその白狐を祀ったものという。
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竹原春泉は大阪の画家だそうです。あまりに有名な白蔵主のお話を書くにあったって、少林寺の名をあえて出さず、白狐のお話があった夢山稲荷に舞台を代えて出版したのかもしれません。
ならば、、、
昔、夢山の麓に白梅という名の美しい人がいた。宇迦之御魂神にお仕えするのが彼女の仕事だった。彼女は、朝から日が暮れるまでかいがいしく働いていた。彼女の仕事場は小さなお社だったが、すがすがしく美しい杜だった。山の麓の小さなお社なので氏子たちは多くはなかったが、信心深い人たちばかりで、五穀豊穣を司るお社と、その神におつかえする白梅を大切に敬っていた。若者達は白梅があまりに美しいので、神の子と信じ会話を交わすだけでどぎまぎした。娘達も、白梅を見かけるたび何か手伝えることはないかと駆け寄った。白梅のそばで働けるだけで自然と所作も洗練され上等な娘になれたように感じた。
神事を執り行う時、彼女の美しさは際立った。色白の頬は内から光を放つかのように白くひかり、小さな唇は果実のようだった。またその声は天に錦の糸が舞い踊っているかのようだった。お社全体が良い香りに満ちた。
ある時、神事の最中にふいに日が翳り、血なまぐさい臭いがした、見知らぬ男が社を訪れたのだ。「どこの者だ、瘴気を発している」「あれは殺生を生業にする男だ」「宇迦之御魂神さまが嫌がっておいでだ」囁きが広まった。
氏子達は「神事の最中である、遠慮してはくれぬか」と男を追い返そうとした。男の目が白梅を捉えて放さないのを感じた氏子達は「神域である、殺生の臭いのする者は立ち入って貰っては困るのだ」と今一度懇願した。「、、、。」男は物も言わず立ち去った。だが、その年、男は社近くに何度となく出没した。その度、氏子達は農作業の手を止め、白梅に隠れるように知らせた。
秋になり男の姿が消えた。他国で仕官先をみつけたのか、諦めて去ったのか判らなかったが、男の姿は見えなくなった。
早春、夢山の麓に冷たい雨が二日続いた後、急に暖かくなって梅のつぼみがふくらんできた。そんな日の昼下がり、白梅はもうすぐ大泉寺に植え替えられることが決まった梅の木のもとに来ていた。宇迦之御魂神様にお仕えすることが決まった時、神様からこの木の力を遷すといわれた木だ。神事の時、白梅のからだから立ちのぼるのがこの梅の花の香りだ。武田のお館様が見つけて、あまりの良い香りに山に置いておくのは惜しいと大泉寺に移す事に決めてしまわれた。大泉寺でお茶会が開かれる事が急に決まり、すぐに植え替えればお茶会に良い香りを漂わすのではと無茶な話がきた。白梅は無茶な植え替えに梅の木が耐えられますようにと力を注ぎに来た。
よく見ると彼女は二人の赤ちゃんを抱いている。この春産まれたばかりのかわいらしい子たち。ちょっぴり冷たい風にほっぺを赤くして笑ってる。
白梅は梅の木に額をつけ何やら一心に唱えている。すると、まだつぼみのその木から、満開の梅の香りが広がってきた。赤ちゃん達はその匂いにつつまれてうとうとし始めた。お口をもにゅもにゅ動かして、まん丸な目はとろんとしてきました。あらあら三角のお耳がちょこんと出てきてしまいました。 白梅は宇迦之御魂神の眷属である白狐だったのです。
「おのれ!アヤカシ!」
油断していました。風下からあの男が忍び寄っていました。白梅に懸想していた男がこっそり戻ってきて白梅の様子を覗っていたのです。白梅が手の届くような女ではないことに気づき、激昂してしまったのです。白狐は妖怪などではなく神様の御遣いなのに、この不信心な男はそんなことも知らず、白梅に一太刀浴びせかけました。普段だったら何のことはなかったのです。白狐はそんな太刀を避けるだけの力を持っているのですが、今日は違いました。白梅は梅の木に自分の力をたっぷり注いでしまった後だったのです。しかも子供たちはまだ何の修行も修めていないただの白い子ギツネ。刃を浴びたらひとたまりもありません。必死に子どもを守り、背に大きな傷を負ってしまいました。
白梅は最後の力を振り絞り飛びました。
子供たちの姿が、ただの白いキツネに変わっていきます。白梅の力で人間の赤ん坊の姿でいたものが、どんどん力が無くなっていくのが分かります。やがて白梅はあちらの世界に行ってしまいます。
翌朝、子ギツネたちはおおぜいの人々の声で目覚めます。白梅が最後に飛んだのが大泉寺の近くでした。運ばれてきた梅はまだ蕾なのに強い香りがしました。子ギツネたちのお腹が減ると梅の香りがより強くなりました。眠くなるとそっと子ギツネたちを包むように香りました。でも子ギツネたちは母を恋しく鳴き続けました。やがて梅の花が散りました。子ギツネたちに食べ物を与えようとした人たちもいましたが、子ギツネたちは見向きもせず鳴き続け、やがて力尽きてしまいました。
ただの白い子ギツネたちは白狐となり、夢山稲荷で神様の御遣いになりました。
白梅を斬った男は、斬った瞬間分かってしまったのです。今までの己が生業に。自分の刃の先に自分と同じように感情のある者がいて、その未来の希望ごと斬り捨ててきたことに、言葉ではなく濁流のように押し寄せる感情で知らされてしまった。 男はその場で刃を折り、どこかへ行ってしまいました。 とさ
(夢山稲荷の白狐達が死ぬまで泣き続けたのは、特別な梅の木だったんだろうと想像を膨らませてしまいました。大泉寺様その他、ご迷惑になりませんように。)
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