1255│天道さん金の綱

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ソース場所:甲府市右左口町

●ソース元 :・ 土橋里木(1975年)全國昔話資料集成16甲州昔話集 岩崎美術社
●画像撮影  : 201年月日
●データ公開 : 2017年10月30日
●提供データ : テキストデータ、JPEG
●データ利用 : なし
●その他   : デザインソースの利用に際しては許諾が必要になります。

[概要] 山奥の一軒家で三人の姉妹が留守番をしていた。母は出掛ける時、「山奥には山姥が棲んでいるから、私の留守中にお母さんだよと言ってきても、決して戸を開けてはいけないよ」とよく言って聞かせた。 間もなく山姥が「お母さんだよ開けておくれ」と来たが、その度、手が毛むくじゃらだったり、声がガラガラだったりしたので、娘たちは見破り戸を開けなかったが、山姥も手をすべすべにしたり、良いこえにしたりでやって来たので、ついには戸を開けてしまい、一番上の子が丸のみに食べられてしまった。残りの二人は裏のケヤキに登り逃げたが、山姥は追って来る。「足裏に油を塗って登った」とか山姥をだましたり、何とか逃げようとしたが、山姥も木に登って来て、いよいよ梢に追い込まれた二人は天の神様に鎖を下ろしてくださいと頼んだ。すると、天から鎖がするすると下りてきて二人は鎖に逃れた。山姥も真似して縄を下ろしてくれと頼むと腐りかけた縄が下ろされ、それにつかまった山姥は、縄が切れて真っ逆さまに落ちてしまった。その勢いでお腹が破け、丸呑みされた娘も助かった。そして、山姥の血で蕎麦畑の蕎麦の根が赤く染まった。だから今でも蕎麦の根は赤いのだと云う。

天道さん金の綱
ある山奥の一軒家で、父親は早く死に、母親と松子、竹子、梅子の三人の子供が住んでいた。ある日、母親がどうしても里へ行かねばならぬ用事ができて、三人の子供に「山奥には古くから山姥が棲んでいるから、もし俺ン留守中に、お母だと言って来ても、決して戸を開けるじゃアないぞ」とよく言い聞かせて、里へ下って行った。
間もなく山姥がやって来て「お母が来たから戸を開けろ」と言った。一番下の梅子が行って、戸を少し開けて「手を出いて見しょオ」と言うと、山姥が戸の隙聞から手を出して見せた。その手には強い毛がいっぱい生え、爪は長くて鋭かった。梅子が戸の隙間からのぞいて見ると、頭の毛はボーボー伸び、目は金色に光り、口は耳までも裂けている怖かない山姥が立っていた。驚いて戸をしめて「家のお母の手はそんな手じゃアないよ」と言った。それから山姥は裏の畑へ行って、芋の蔓を切ってその汁で手をふくと手が滑ッこくなった。またやって来て「お母が来たから戸を開けろ」と言った。そこでまた梅子が戸の隙間から手を出させて見ると、手だけはきれいになったが、その声は割れ鐘のような声をしていた。「家のお母の声はそんな声じゃアないよ」と言うと、山姥は裏の畑へ行き、苧の葉に、溜っていた露を飲むと、いい声になったのでまたやって来た。
「お母が来たから戸を開けろ」と言うからまた梅子が出て、手を出させて見たり、声を聞いて見たりして、手もきれい、声もいい声だから、今度はてッきりお母だと思って戸を開けてやった。山姥は物凄い勢ではいって来ると、いきなり梅子を両手でっかまえて口の中へ入れた。慾の深い山姥は、残りの二人の子供をも早く食いたくて、噛んでいる暇もく、梅子をまる呑みに呑んでしまった。
松子、竹子の二人の姉はその暇に裏から逃げ出し、物置から鎌を持って来て、裏のけやきの木へチョンキ、チョンキとすげながら、それへ足をかけて登って行った。山姥は大きな声で、「畜生ッ、どこへ行きゃアがった」とどなりながら二人の後を追って来た。けやきの木の所まで来て、ふと木の下の井戸をのぞいて見ると、井戸の中に二人の子供がはいっている。「どうしてそんな所イへいりやアがった。出て来ないば石オ投げこむぞ」とどなるので、木の上の二人はおじけて「井戸ン中じゃアない。こっちだよ」と言った。山姥が上を見ると、木の上に二人の子供が震えていて、井戸の中のは水に映った影であった。
「どうしてそんな所イ登りやアがった」と言うと、二人は「物置の中から油を持って来て足へ塗っとオだ」と答えた。山姥は物置から油をたくさん持って来て、みんな足へ塗って木へ登ろうとしたが、足がつるつる滑ってどうしても登れぬ。山姥は怒って「どうして登りやアがった。本当のことを言わないば取って喰うぞ」とおどかした。二人の子供は怖かなくなって、正直に「物置ン中から鎌ァ持って来て、チョンキ、チョンキとぶっこみながら登った」と答えた。山姥はすぐに鎌を持って来て、そのとおりにして木へ登って来た。子供らはだんだん木の上の方へ逃げて行ったが、もう枝が細くなってそれから上へは行くことができぬ。
そのうちにも山姥は下からどんどん迫って来るので、二人は困り切って「天の神さん、どうか鎖を下しておくんない」と言って拝んだ。すると空から太い鉄の鎖がジャランといって落ちて来た。二人は喜んでそれへつかまって地へ下りて逃げて行った。木のてっぺんまで追って来て、二人に逃げられた山姥は、やはり「天の神さん、どうか縄を下ろしておくんない」と言って拝んだ。すると空から腐りかかった縄がポシャンといって落ちて来たので、あわてて目が眩んだ山姥が、いきなりそれにつかまると、縄が切れてまっさかさまにぶち落ちた。その下には大きな石があって、山姥はそれにウンとぶっつかって死に、その拍子に腹が裂けて、呑まれていた梅子もまだ生きたままで出て来た。そこへお母も里から帰って来て、三人の子供を抱いて喜んだ。
山姥が落ちた所に蕎麦の畑があって、その血で蕎麦の根が赤く染まった。それから後、蕎麦の根はあんなに赤いのである。

(昭和十六年一月七日 中道町右左口 長塚一宝君〔二十六歳〕
同君が村の盲人田中かつ婆様より)

土橋里木(1975年)全國昔話資料集成16甲州昔話集 岩崎美術社

* 話者の年齢は採話時のもの

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